治療法について
(治療法は担当の医師とよく相談してお決めください)

治療法を選ぶために大切なこと
がんと診断されて、それを告げられたらショックで落ち込むのは当然です。これからの生活で不安なこともあるでしょうし、ご家族も心配なことでしょう。しかし、前立腺がんは早期であれば完全に治すことができますし、進行したがんであっても、進行を抑える有効な治療法があります。
がんと診断された場合は、CT、MRI、骨シンチグラフィーなどの画像診断で、前立腺がんの広がりや転移の有無を調べます。また、PSA値や前立腺針生検から得られたがんの悪性度なども参考にしながら、治療法を選ぶことになります。
病気の広がりに応じて様々な治療法があります。専門医は、病気の進行度・年齢・他の重い合併症の有無などを考慮して、あなたに適した治療法を提案しますが、一般的に早期がんほど、提案する治療の選択肢は多くなります。
治療法を決めるにあたっては、それぞれの治療法の治療成績、特徴や合併症などを理解し、わからないことは専門医に相談し、自分自身にあった治療法を選ぶことが大切です。
前立腺がんの手術について教えてください
がんが前立腺にとどまっている早期がんに対しては、前立腺と精のうを摘出する前立腺全摘除術(ぜんりつせんてきじょじゅつ)を行うことができます。これは、がんを完全に治すことが可能な治療法の一つです。
開放手術には、へその下を縦に切開する経恥骨後式(けいちこつこうしき)と、肛門と陰のうの間を切開する経会陰式(けいえいんしき)があります。腹腔鏡(ふくくうきょう)を使用しモニターに映しだされた画像を見ながら行う腹腔鏡手術という方法もありますが、医師の高度な技術が必要です。また、最近はより低侵襲で精密な手術が可能なロボットを用いた腹腔鏡手術(ロボット支援前立腺全摘除術)が急速に普及してきました。
術後は尿道からカテーテルが挿入されますが、1週間ほどで抜くことができます。術直後は尿もれがおこりますが、多くの場合、時間の経過とともに軽快します。
手術中の出血に対応するために、事前に自分の血液(自己血)を用意することもできます。従来の開放手術と比べて、ロボット支援前立腺全摘除術では出血の危険が低くなります。その他の合併症としては、勃起障害がありますが、病状によっては勃起神経を温存する手術も可能です(手術後の勃起機能保持率は年齢や温存の程度によって影響を受けます)。


放射線療法について教えてください
放射線療法とは、前立腺に放射線を当て、がん細胞を殺す方法です。がんが前立腺に限局した早期がんに対して行うもので、手術と同様にがんを完全に治すことが可能な治療法の一つです。また、前立腺の周囲に広がったがんに対しても、放射線療法に内分泌療法(ホルモン療法)を併用することで、がんを根治できる可能性が高くなります。
放射線療法には、体外から照射する方法(外照射療法)と、放射線を出す小さな線源を前立腺内に挿入する組織内照射療法があります。外照射療法は、一般的に1日1回、週5回で7週間ほどの通院が必要になります。最近は、高度な外照射療法として、合併症の少ない強度変調放射線治療(IMRT)やトモセラピーができる施設が増えてきました。組織内照射療法は、ヨウ素125密封小線源永久挿入療法(シード治療)とイリジウム192による高線量率組織内照射療法(HDR)があります。シード治療は、線源を永久的に前立腺に埋め込みますが、徐々に放射線量は減り、通常、周囲の方への放射線の影響は全くありません。シード治療は悪性度の低い早期の限局がんが良い適応で、体の負担が少なく、3~4日の短期入院で治療が完了し、かつ手術とほぼ同等の治療効果が得られます。HDRは外照射療法と内分泌療法を組み合わせることで前立腺の周囲に広がった局所進行がんや、高悪性度の限局がんに対しても有効な治療です。
放射線療法には頻尿(尿の回数が増える)、下痢、血便などの副作用がときに起こりますが、程度は軽いものがほとんどです。
また、治療可能な施設はまだごく限られていますが、高度先進医療である粒子線治療(重粒子線・陽子線)も前立腺がんに対する有効で副作用の少ない治療法として注目を集めています。
内分泌療法について教えてください
前立腺がんは男性ホルモン(テストステロン)の影響を受けて大きくなる性質があります。体内の男性ホルモンを低下させたり、その作用を抑制することでがんの増殖を抑える治療法が内分泌療法です。標準的な内分泌療法には、男性ホルモンをつくる主な臓器である精巣を摘除する外科的去勢術(きょせいじゅつ)と薬物療法があります。薬物療法は、脳下垂体からの男性ホルモンの分泌指令を低下させる注射薬として、LH-RHアゴニストとLH-RHアンタゴニストがありますが、どちらの注射も外科的去勢術(精巣摘除)をした場合と同じように、血中の男性ホルモンが低下します。また、男性ホルモンの作用を阻害する内服薬として抗アンドロゲン剤が、上記の去勢術や注射薬と同時にしばしば用いられます。内分泌療法は転移がんに対する標準的治療法です。一般的に転移がんであっても、多くの場合、内分泌療法によって数年間は病気の進展を抑制できますが、時間の経過とともに効果が弱くなるという問題点があります*。また、内分泌療法は限局がんや局所進行がんに対する放射線療法の治療効果を高めるために、併用されることもしばしばあります。内分泌療法の主な合併症は、勃起障害、骨粗鬆症、体のほてり、発汗、筋力低下などですが、重篤な合併症はまれです。また骨粗鬆症は適切な治療により予防することができます。※標準的な内分泌療法が効かなくなる状態を「去勢抵抗性前立腺がん」といいます。治療法は新しい内服薬による内分泌療法、抗がん剤の点滴治療の他、旧来から用いられている女性ホルモン剤による治療が行われています。
